職場の安全

40年間働いて1回でも怪我をする人は20人に1人 安全は理屈抜き?

 

日本における労働災害の少なさは世界的に見ても一流の水準にある。 製造業の工場においても労働条件が改善されると共に、安全管理が厳しく行われて、労働災害は低い水準に保たれている。 私のいた職場でも工場勤務者と事務所勤務者とを合せて約8000人の従業員(正社員の他協力社員を含む)がいて、年間の災害発生件数は、10件程度(休業災害、不休災害を含む)であった。

計算を簡単にするため、1人の社員が入社後定年まで40年間働いて、その間に1回だけ怪我をしたと仮定すると、8000人では40年間に8000件発生することのなる。 1年間では、8000件を40年で割って200件の災害が発生することとなり、大変な数字である。 現実には10件しか発生しないと言うことは、20分の1であるから、40年間働いて1回でも怪我をする人は20人に1人と言うことになる。 家庭にいても一寸した怪我はあることだから、想像以上に低い数字であろう。

こんな安全水準を維持するために企業も随分金と人を掛けているし、安全管理業務に携わる人達の苦労も大変である。 しかし、少々マンネリ化していることも事実である。 例えば、高所作業での墜落災害を防止するために安全帯(ロープのついた腰ベルト)と言うのを使うが、その安全帯の使用を強調する余り、全く高所作業などしない人(高所作業の側を通るだけ)にまで安全帯を付けさせている(腰に巻いている)。

この安全帯がまたかなり重いもので、腰に巻いているだけでも、30分もすると腰が重くなるし、体の動きまで鈍くなり、反って安全上宜しくないほどである。 中には「安全は理屈抜きで、決められた通りにしろ」、などと馬鹿なことを言う人もいる。 職場の状況は千差万別であり、理屈抜きで考えることを止めてしまったのでは、絶対に安全は保たれなるものではない。 一人一人が自分の身を守ることを良く考えて行動してこそ、本当に安全な職場が作られるのであるから。

また、工場ではクレーンが高い所に通っていて荷物を運んでいるが、この荷物の下は絶対に歩いてはいけないことになっている。 万一荷物を吊っている鋼鉄のワイアが切れて、荷物が落ちてくると危ないからである。 実際にその種の災害も発生しているようである。

しかし考えてみると、飛行機は空を飛んでおり鋼鉄のワイアで吊るされているわけではないから、何時落ちてこないとも限らない。 飛行場の近くでは頭のすぐ上を飛んでいる。 現実に墜落事故は世界のあちこちで年間何件か発生している。 しかし誰も飛行機の下を歩いてはいけないなどと言う人はいない。 それは飛行機の方で落ちない様にいろいろと努力と工夫をしているので、飛行機の下を歩くなと言う人はいないのであろう。 クレーンの場合も同じで荷物を落ちない様に工夫するのが本筋である。 荷物が落ちない様にする良いアイデアがないために、下を歩く人にしわ寄せしている訳であろう。