引き算の世界、足し算の世界2000.5)

「製造コスト プラス 利益」 「売価 マイナス 利益」 足し算の世界に馴染んだ人達は脱落

一般に物価や人件費は年々少しづつ上昇するものである。 特に第2次世界大戦後の日本では急速なインフレで物価も人件費も大幅に上昇した。 ところが1990年のバブル崩壊を契機にここ10年は逆の現象(物価や人件費の低下)が起きている。 そのために、ものの値段の決め方に変化が起きている。 終戦後の日本では一貫して供給者側の力が消費者側の力に勝っていたため、物の値段は「製造コスト プラス 利益」と言う考え方で決められてきた。 従って、その時代に社会人であった年代の人達の殆どは、このプラス主義(足し算の世界)の考え方がすっかり定着してしまった。

一方、バブル崩壊後の不景気により、この思考が大きく変化した。 供給者側と消費者側の力関係が逆転し、物の値段は製造コストから決まるのではなく消費者(購入者)の価値観で決まる様になった。 例えば製造コストが1500円かかっている商品であっても購入者がそれを見て、これなら千円でもいらないと判断すれば千円でも売れないし、1万円出してでも欲しいと判断すれば1万円でも売れる。 その品物の製造コストがいくら掛かっているかは直接関係しない。 

品物ではなくサービスを売買する場合はもっとその傾向が強い。 いくらコストが掛かっているかは品物の場合以上に消費者には見え難いので、そのサービスの値段は買い手側の価値観次第で決まる。 

従って物(またはサービス)の値段が先に決まり、製造コストはその値段から利益を引いた値となる「売価 マイナス 利益」(引き算の世界)。 製造コストが千円の品物であっても、消費者が1万円の価値を認めれば1万円で売れば良いし、逆にコストが1万円掛かっていても、消費者が千円の価値しか認めてくれなければ、千円で売るしかない。

しかし、足し算の世界にすっかり馴染んでしまった人達は、先ずコストありきで考えるから消費者が決めた値段に付いて行けず脱落する。 現在多くの製造業でこの現象が現れている。 こんな経済情勢の中で勝ち残って行くためには、或る商品に関して、先ず消費者が認めてくれる価格が決まり、それから利益や管理費を差し引いた残りの金額で商品を製造しなければならない。 これが引き算の世界であるが、永年足し算の世界で生きてきた中高年世代の多くは、発想の大転換を迫られている。