イギリスがインドに残したもの

 英国東インド会社 英語・公共の建造物・道路・街路樹・都市計画・ゴルフ場 紙幣の裏面 国際語 ソフトウエアの産業

 

 インドは長い間イギリスの植民地下にあった。 英国東インド会社による直轄の期間だけでも100年に及ぶ。 イギリスのインドに対する植民地政策は過酷なものであったと言われているが、その一方で現在のインド国内を旅した時、イギリスはインドに立派な財産を残している様にも思う。 短いインド滞在中に気付いたものだけでも、英語公共の建造物、道路、街路樹、都市計画、ゴルフ場などがある。

 その中でも最も大きなものの一つが英語である。 日本では考えられないことだが、インドでは州によって言葉も文字も異なり、公式に認められているものだけでも14の言葉がある。 細かな違いまでいれると数百の言語があると言われる。 国内で通用する紙幣(ルピー)の裏面には14の異なった文字でその紙幣の価値が書かれている。 例えば100ルピー紙幣には14段に100ルピー、100ルピー、100ルピーと異なった文字で印刷されている。

 インド人の会話を聞いていても、同じ出身地の人どうし(地元の人どうし)で会話をしている時はその土地の言葉で喋っているが、異なる出身地の人との会話になると英語で話している。 特にわたしが仕事をしていた職場は国営の工場であったため、職員(特に上級の職員)は国家公務員であり、広い国内の各地から採用されて来ている。 そのため彼等は総て英語で話しをしている(各自の出身地の言葉では通じない)。

 中央政府はヒンデイ語を標準語と定めているが、この言葉はもともとインド北部の言葉であるため、その地方の出身者以外はほとんど使おうとしない。 また、こんなこともあった。 同じ地方の出身者どうしが話をしているのを何とはなしに聞いていると、最初は彼等の地方の言葉で喋っていたのが、何時の間にか英語に変わっている。 あれあれと思って聞いていると、その内に又彼等の地方言葉に変わっている。 どうやら話の内容によって使う言葉を変えているらしいのである。 そこで彼等の話が終わった後で、なぜ話の途中で言葉を換えるのかと質問してみた。 彼等の答えはこうである。 「日常的なことを話している時は地方言葉で良いが、技術的な事柄や複雑な事柄に話が及ぶと地方言葉では上手く言い表せないので、英語に換えるのだ」と。

 彼等は技術的なことや複雑なことは、大学時代に英語で教育を受けているので、そんなレベルの話になると英語の方が理解し易いらしい。 また、家庭で子供と話をする時でも、総て英語にしている人達もいる。 将来仕事に就く時、英語が堪能でないと不利になるため、子供の時から英語教育をしているのである。

 英語が唯一の国際語となっている現在の世界で、英語で自由に読み書きできることは実に有利な条件となっている。 現にインドでコンピュータ ソフトウエアの産業が繁栄している理由の一つにこの英語の実力が大きく貢献している。 日本のソフトウエアの活躍範囲が狭いのと良い対比をなしている。