インド人の発想 日本人の発想(1998/11)

数10トンの船の部品と10キロの鍋釜とを一緒くたに 大型プレス機とサトウキビ用の搾り機 契約にないものはびた一文出せない

 

かつて、インド政府のコンサルタントとして、同国の造船所建設に参画したことがある。 その際、我々日本人にはとても考えられない様な彼らの発想を見聞した。 その内の2,3の例を挙げてみたい。 これらの例は、彼らのビジネスに対する考え方を理解する上でのヒントとなる。

造船所が大型の鋳造製品(総重量数10トンもある船の船尾部品)を購入するため、新聞に国際入札の募集広告を出した。 我々は、インド国内ではこんな大型の製品を作った実績のあるメーカーはなく、当然対応できるのは外国メーカーだけであろうと予想していた。 しかし、法律上国内メーカーにも一応告知する必要があったので、国内外向けの広告としたのである。

ところが蓋を開けてみると、応札企業の中には意外にも5,6社ものインド国内メーカーが含まれており、しかも地元の零細鋳物メーカーまで含まれていた。 地元の零細鋳物メーカーを呼んで実績を調べてみると、彼らは「鉄製の鍋や釜を沢山鋳物で作っている」、 「 指導してもらえば何でも作ります」と。 数10トンもある複雑な形状の船の部品と10キロや20キロの鍋釜とを一緒くたにしてしまい、とにかく少しでも可能性があれば手を挙げる、その積極性?と強引さには、我々日本人一同開いた口が塞がらなかった。

同様の例で、厚さ50ミリの鋼板を正確に曲げるための大型(3000トン)プレス機械の入札にサトウキビ用の搾り機メーカー(これもプレス機には違いないが)が応札してきた時には爆笑していまった。

こんな例もあった。 造船所が大型のクレーンをインド国内のメーカーに発注した。 クレーンは工場で製作され、造船所に納入されて無事引き渡しされることとなった。 このクレーンには荷物を釣り上げるためのワイヤードラム、これを駆動する大型のモーター、更にモーターを制御するための制御装置、などが機械室(クレーンの上にある)に収容されていた。 しかし機械室は窓も小さく室内の照明も小さいので、機械の細部を点検するためには明るさが十分ではなく暗かった。 そこでクレーンの引き取りに立ち会った造船所側の技術者は、クレーンメーカー側の担当者に一つの要求をだした。 機械室内で使用する移動灯(電線コードがついた携帯型の電灯で、コンセントに差し込んで使用する)を1個寄付してほしいと。

機械室は暗くて点検時には不便であるし、こんな高額の製品を発注したのだから、移動灯の1灯くらいは無償でくれても良いだろうと言うわけだ。 我々日本人が考えても尤もな要求である。 何しろクレーンは日本円で1機数千万円はするし、移動灯はたかだか日本円で数百円である。 しかし、それに対するメーカー側の担当者の回答が奮っている。 「クレーンの購入契約書には移動灯は含まれていない。 造船所はこんなに高額のクレーンを購入するほどのお金を持っているのだから、数百円の移動灯が必要なら当然その分のお金は追加で支払うべきである。 そうすれば納入する」と。 契約にないものはびた一文出せないと言うわけだ。 我々は驚いて造船所の技術者の顔を見た。 彼は渋い顔をしたが、止む無く自分の要求を諦めた。 これが日本のメーカーであれば、一も二もなく無償で納入したであろう。

上の例で見られる様に、彼らのたくましさ(或る意味では、一応言って見て駄目ならしょうがないと諦める)は、我々日本人の想像を遥かに超えるものがある。 このたくましさ(ダメもとの精神と呼ぶ)にはインドでの生活のいろいろな場面で遭遇することである。