かもにされる日本人2000.5)

日本とは対極にあるインド 臭いや汚さに辟易し2度と行きたくない人 密輸入のウイスキー売り 観光地の土産物売り 国内の常識で対応する日本人が甘過ぎ 日本の常識は世界の非常識

日本人にとってインドはとてつもなくかけ離れた国である。 種々雑多な人種、何種類あるとも分からぬ言葉や文字、超大金持ちの家族と極端に貧しい乞食の家族、人と車で混雑した街中を悠然と歩く牛達、宗教と生活が渾然一体となった日常生活、などなど数え挙げれば限がない。 東南アジアと比べても、ビルマ(現ミヤンマー)から東とその隣のバングラデッシュから西では、人々の顔つきや生活様式が大きく異なる。 

その意味でインドは地球上でも、日本とは対極にある国であろう。 そんな物珍しさに惹かれて多くの日本人がインドを訪れ、多くの人達はその臭いや汚さに辟易して、もう2度と行きたくないと言う。 一方少数だが一部の人は、その多様性に惹かれて不思議な魅力を感じ、インドが大好きになる。 両者のインドに対する評価は他の国に比べて極端に異なる。 例えば、ハワイに旅行をした日本人の感想は、「海がきれいだ」、とか「果物が美味しい」、とか「日本人が多くて外国の気分がしない」、とか、個人的に少々の違いはあっても、大同小異であろう。

臭いや汚さとは別に、インド人に騙されたとか、誤魔化されたとかの例もずいぶん多い。 私自身だけの例でもいろいろあった。 滞在していた街が港に近かったこともあって、宿泊していたホテルに何人ものインド人が密輸入のウイスキーを売りにきた。 偽物のスコッチを売りに来る奴がいることは先輩の日本人から聞いていたので、いつもは売人の中でも信用のおける特定のインド人から買っていたのだが、偶々それが途切れた時に新顔のインド人が売りに来た。 

同僚と一緒にビンをしっかりチェックしたが間違いなく新品のスコッチウイスキー(ホワイトホース)だ。 彼には、「もしこのウイスキーが偽物だったら商売は今日限りだが、本物だったらこれからも引き続き買う。 長く付き合って沢山儲けたいなら今正直に言え」と何度も念を押したが、「絶対本物で間違いない」と言い切るので、試しに1本だけ買いホテルの部屋で栓を抜いて見たら、全くの偽物で見事に騙されていた。 

ホワイトホースの空き瓶に色の付いた水をいれ、ビンの口のシールを完璧に復元している。 ホテルのロビーで見たときは少々暗かったこともありシールのキズを見破れなかった。 こんなこともあろうかとこちらも用心して、何時もの密売人なら1ケース(1ダース)買うのだが1本だけにしておいたのが正解だった。 これもインド滞在中についた生活の知恵だ。

また、こんなこともあった。 ある観光地で小学生位の子供の土産物売りが、水牛の骨で作った置物を買ってくれとひつこく付いて来るので、そんな物を買うつもりは全くなかったが、冗談半分に言い値の10分の1の値段を言い、そこまで負けるなら1つ買うと言った。 これなら諦めて帰るに違いないと思ったのだ。 

ところがこれが甘かった。 こちらの意に反して、子供はその値段で売ると言う。 こちらの方がビックリしたが、負けたら買うと言った手前、引っ込みがつかなくなり残念ながら買ってしまった。 勿論、その値段で売っても相手は儲かっているわけだから、土産物屋は10倍以上ふっかけていたわけだ。 

もし、日本人の常識で2,3割値切る程度で買っていたら、随分高く買わされていたことになる。 しかし、10分の1に値切る日本人は少ないと思う。 このあたりが日本人の用心の限界である。

いずれにしても、長く滞在して、彼等と何度となく接触していると、そんな経験を何度も何度もしながら、こちらも知恵が付きだんだんと騙されなくなっていく。 従って、1週間や10日間、観光で来た日本人は彼等の手口に易々と引っ掛かる。 何倍も高く買わされたり、偽物を掴まされたり、釣銭を誤魔化されたり、かっぱらいに合ったり、スリにやられたり、散々待たされたり、約束を破られたり、嘘をつかれたり、などなど散々いやな経験を味わわされる。

何もインド人ばかりが悪いのではない。 日本国内の常識で対応しようとする日本人が甘過ぎるだけである。 日本人が世間(世界)を知らないということである。 同じ顔をし、同じ言葉をしゃべり、同じような常識・価値観を持ち、阿吽(あうん)の呼吸で理解し合える人間が1億2千万人も一つ所に住んでいることが世界の常識から見れば例外中の例外で、そんな国に住み慣れた常識をインドに当てはめても通じるはずがない。 

日本でも、新人類とか超人類とか言われる若者が出現しているが、その新人類と旧人類程度の違いは、インド人と日本人との違いに比べれば全く無視できる程度のものである。 単に顔立ちの違いではなく、ものの考え方が基本的に違う

半年、1年、2年とインドにいると、何が日本と同じで、何が日本と違うかが分かって来る。 そうなると、インドの嫌な点と同時にその良い点が見えてくる。 日本にも悪い奴は幾らでもいるし、欠点も沢山あるのだから、インドに悪い奴がいたり、欠点が沢山あっても当然である。 よく観察すれば良いところも沢山見えてくるものだ。 

何といっても物価がべらぼうに安いのが第1の良い点であろう。 総ての物価の元となる人件費がべらぼうに安いから、結果として物価が安くなる。 日本人にはその意味で生活天国であり、国内では想像もできない大名暮らしができるわけだ。 例えば、私(まだ30才の前半)がインド滞在中に、出張費の一部として現地で受取っていた小切手の額は、インド最大の国営造船会社の会長(インド陸軍の退役将軍、50才後半)の手取り給料より多かったのだから想像が付くと思う。 

また、私が現地で泊まっていたホテルのボーイの月給は、私の1泊分のルームチャージより安かった程だ。 もっとも、ボーイは住み込み勤務のため、食事は無料で食べさせてもらっていたのかも知れないが、それにしても安い給料である。

「日本の常識は世界の非常識」、「世界の常識は日本の非常識」とさえ云われる。 将に、「日本の常識は印の非常識」であり、「印の常識は日本の非常識」である。