サラ金地獄1998.7)

金利の支払いだけで給料を超えてしまう 当人自身も借金の正確な総額は分からない 金利をゼロにしてもらえれば必ず支払う 今後の金利はゼロにする 頼りない息子を持った母親は幾つになっても苦労

 

 

 

ある時、私の事務所に若い部下の母親が訪ねてきた。 私に「是非お願いしたいことがある」と言う。 その部下は30才に近い独身の男性社員で、母一人子一人の家庭であった。 母親が私に縷々説明するには、息子が何軒ものサラ金から金を借りて、それらの借金に対する金利の支払いだけで、息子の給料を超えてしまう程になってしまった、自分ではどうすれば良いか分からない、何とか助けてほしい、と言うのである。 勿論、借りた金の使途は仕事とは関係なく、競輪・競馬や飲み代に消えていた。

 

さあどうするべきか。 私にもサラ金との付き合いはないし、良い解決法がすぐに思いつくはずもない。 しかし、困りきった母親を放り出す訳には行かない。 取り合えず、何とか検討するからといって、帰ってもらった。 当時私の配下には中高年、若年取り混ぜて90人ほどの社員がいた。 私も全員の私生活までは把握していなかったが、当人には就業時間中に、何度かサラ金から督促らしいい電話が掛かっていたらしい。

 

いろいろ考えて見たが良い考えなど浮かぶはずもない。 当人はおとなしくて、あまりものも言わない、目立たない男であった。 当人から借金の総額、借り入れたサラ金の社名、などを聞いて驚いた。 6,7社から合計200万円ほど借りていたが、当人自身が借金の正確な総額は分からないという。 借入額、金利、返済額が、頭の中でごちゃ混ぜになっているのだ。 借用証を何枚も持っていたが、金額や金利の記載がないものさえある。 何といい加減なことか。 どうするつもりかと問うても、黙ってしまうだけで、全く手応えがない。

 

考えていても良い手はないので、とにかく自分でサラ金の各社に当ってみることにした。 サラ金各社は、JRの神戸、元町、三ノ宮駅近くの繁華街にあった。 私は生まれて初めてサラ金の店を訪ねてみて驚いたが、日中から若者が気軽に店に出入りしている。 何だか自分の住む世界とは、別の世界に来たような気がした。 店の責任者に面会して、こちらから次の要求を出した。 1)本人の給料は母親と私が管理する、2)毎月必ず一定額を分割返済する、3)現在未払いで残っている金利と今後発生する金利はゼロにする、4)返済が完了するまで追加融資はしない。

 

サラ金側との交渉はおよそ以下の通りである。

サラ金「当社も金利を払って金を借り、それを貸している。 金利をゼロにはできない」

私「金利を払うだけで給料を超すので、ゼロにできないならこの問題から手を引く」

サラ金「分割でも良いから、何とか毎月支払ってほしい」

私「金利をゼロにしてもらえれば、必ず支払う

サラ金「当社も金融業なので、金利は負けられない」

私「現在までに多額の金利を払っているから、今後は元金だけの支払いにしてほしい」

サラ金「うーん、止むをえない。 今後発生する金利だけはゼロにする」

 

1社目は過去の金利分を除いて話しが着いた。 サラ金側も、本人が破産して会社を辞めれば元も子もないので、渋々妥協したのであろう。 2者目も同じ条件でOKした。

3社目で話しを切り出した際、そこの責任者が「何社も同じ交渉をするのは大変でしょう。 サラ金の組合を紹介するから、そこで一括解決してはどうですか」と教えてくれた。 早速その足で組合を訪れ、用件を話すと、関連のサラ金各社を呼ぶので、本人を同行して指定の日時に来てほしい、とのこと。

 

指定の日時に本人を同行して出かけて行くとサラ金の代表者が3人来ていた。 例の4条件を提示すると、今後の金利はゼロにするが、今までに発生している金利は負けられないと言う。 そこを何とか負けてほしいと更に粘る。 ところがそれまで私の後ろで黙って聞いていた本人が、嬉しそうな表情で「これからの利子を無しにして貰えるのですか、それなら払います」とOKしてしまった。 せっかく今までの金利未払い分も含めて、少しでも安くしてやろうと私が交渉しているのに、本人が後ろからOKしてしまったのでは、それ以上頑張る訳にもいかないので、そこで折り合った。

 

以後、本人からは健康保険証、社員証、給料明細書など、サラ金で借りられそうな証明書類は総て預かり、給料も母親に直接渡して管理することにして、分割払いをすることにした。 その後母親が来社し、涙を流して感謝して、お礼に手編みの毛糸のベストをくれた。 頼りない息子を持った母親は、幾つになっても苦労させられるものだ。

 

後日談になるが、私が職場を転勤になった後も分割払いを続け、約2年間で借金は完済したと聞いた。 更にその後、またまたサラ金に手を出したと噂が流れてきたが、詳しいことは知る由もない。 染み付いた性格を治すのは、並大抵のことではないものだ。