テロとの戦い2007.8)

テロを武力で制圧する 戦略的に間違い 総ての「テロリストに変身しそうな市民」を消してしまわねばならない 「テロとの戦い」は、戦う度に新たなテロ戦士を次々と生み出す 安定して働く職場 収入で自分の家族を養う テロ対策費は後ろ向きの費用 武力で統一されたベトナムが経済競争によって平和裏に民主化 「テロとの戦い」は経済によって解決すべきで武力では解決できない

 

アメリカで発生した同時多発テロ事件(9.11事件)以来、「テロとの戦い」という言葉がアメリカ政府その他の方針として、しばしばメディアで取り上げられている。 日本政府もアメリカの方針に右へ習えをして、口移しで唱えている。 一方現実の「テロとの戦い」では、ここ数年来、イラクやアフガニスタン、パキスタンで米軍が苦戦しており、何十万人もの一般市民と、何千人ものアメリカ兵が貴重な命を落としている。 しかも、未だ解決の糸口が見えない状態である。

 

しかし、「テロとの戦い」を唱えている人達が、テロを武力で制圧することを意図しているのであれば、少し冷静に考えて見れば分かることだが、「テロとの戦い」が大きな目で見た場合、戦略的に間違いであることは、誰の目にも明らかであろう。 なぜなら、「テロとの戦い」は、従来の戦争とは対戦相手が全く異なるからである。 従来の戦争での相手方は軍服を着た兵隊であるが、「テロとの戦い」での相手は全くつかみ所のない人達である。

 

テロリストは、昨日まで普通の市民であった人が、今日はテロリストになっているかも知れず、今日はテロリストであっても、明日はまた普通の市民に戻っているかも知れない。

従って、「テロとの戦い」で、総てのテロリストを無くそうすれば、総ての「テロリストに変身しそうな市民」を消してしまわねばならないことになり、そんなことを考えること自体がどうかしているし、それは不可能なことである。

 

通常の軍隊は、職業軍人、志願兵、徴兵制度で集められた兵隊で構成されているが、テロリストは、自分の意思か或いは誰かに強制されて、その時々のテロ活動に加わっている。軍人の場合は、その家族を含めてその任務に命が掛かっていることをある程度は認識しているし、最悪の場合、戦死することも覚悟している。

 

テロリストには明確な定義はなく、相手の軍隊がテロリストだとして殺した場合でも、テロリスト側は、自分は(或いは自分の父は)テロリストではないのに殺されたと思うかも知れない。 たまたま、テロリストの周辺にいたり、友人・親戚関係であったため、間違って殺される場合もある。

 

当然ながら、一人のテロリスト或いはテロリストの周辺の人を殺せば、新たな恨みを生み出し、新たなテロリスト予備群を作り出す。 「テロとの戦い」は、戦う度に新たなテロ戦士を次々と生み出す。 従って、終わることはなく、「テロとの戦い」は論理的にも矛盾している。

 

テロを無くすためには、テロリスト予備軍の発生を止めなければいけない。 毎日安定して働く職場があり、そこから一定の収入が得られ、その収入で自分自身や家族を養っていくことができれば、ごく一部の狂信者を除いて、誰がテロリストになることを希望するだろうか。 これこそがテロ撲滅の唯一の道である。 故人曰く「小人閑居して不善をなす」(小人とはごく普通の人)と。 これは歴史の知恵である。

 

一方、テロ対策に使う総ての経費は膨大である。 戦闘機・軍艦・戦車・ミサイル・機関銃・軍事基地などの製造費や維持費、軍人の給与、など直接の戦費以外に、空港での警備費用、金融機関でのテロ資金チェック費用、などなど。 これらテロ対策費用のごく一部を使えば、テロ発生地域に職場を作り出すことは用意である。 何よりも、テロ対策費は後ろ向きの費用だが、職場を作り出す費用は前向きであることが評価できる。 資金さえあれば、テロ発生地域でなすべき仕事は、道路・上下水道・病院・通信施設、などインフラの整備、農工業や教育の振興、その他いくらでもある。

 

「テロとの戦い」が戦略的に間違っている以上、米軍兵士がいくら優秀であっても、戦闘で勝ち、最終的にテロをなくすることはできない。 戦略上の失敗を戦闘で挽回することができないことは、戦争の原則である

 

アメリカは第2次世界大戦後、3度長期の戦争をしている。 朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争、である。 今、振り返って見ると、3度とも殆んど失敗と言える。 朝鮮戦争は、アメリカが参加していなければ、朝鮮半島が統一されて共産主義国家が出来ていたであろう。 それが南半分は共産化されずに済み、その結果日本も共産化されなかったから、成功であったと評価すべきなのかも知れない。 しかし、朝鮮半島が共産化されれば、即、日本も同じかどうかは疑わしい。 更にベトナムの例から見ると、南北が共産主義政権で統一されたが、現在のベトナムを見れば分かるように、武力で統一され共産化されたベトナムが、武力を使わない経済競争によって平和裏に民主化しつつある。 東西ドイツも武力によっては統一されず、経済競争によって統一されている。 東ヨーロッパの多くの元共産圏の国々も、ベトナムと同様に経済競争によって民主化されている。

 

少々時間が掛かるかも知れないが、武力ではなく経済によって問題が解決された(状況が大きく変化した)例である。 「テロとの戦い」も将に経済によって解決すべきであって、武力では解決できない。 アメリカは歴史に学んでいないといえる。 日本はアメリカに追従するのではなく、この歴史の教訓を確りと認識して、テロ紛争解決への正しい道筋を共に選択して行かねばならない。