インドでの暮らし その8
 
インドの水道2005.6)

シャワーが目詰まり 流れる水は清し 水道水を生で飲む インドのペーロン 濁った水をさっとすくって 日本とは違う衛生感覚 下痢をしない インド製に置き換わった細胞

 

インドに限らず大陸国の水道は硬水が多く、水分中に鉱物質が含まれていることが多い。

そのため、シャワーの小さな穴などにこの鉱物質がこびりついて詰まることがある。ホテルによってはシャワーの噴出し口(数十個の小さな穴)の半分以上が目詰まりして、水が出てこないこともある。

コップを水道水で洗って乾かすと、コップの内側に白い粉がうっすらと付着していたりする。バスタブに水を溜めると鉄分を含んだ赤い水(鉄管の錆?)が出ることも度々である。

 

日本の地形のように、海と山が接近している場合は、降った雨が急傾斜の川をさっと流れ、長く留まることなく海に注ぐので、川の水も比較的きれいである。

しかし、大陸では川の傾斜がゆるく、流れているのかいないのか、よく分からない程にゆったりとしているので、水も汚れ易い。

流れる水は清し」と言われるが、その逆は「留まる水は不潔」である。従って、インドでも殆んどの地方で、水道水は煮沸しなければ飲めない。ウッカリ生水を飲めば、即、下痢をする。

 

 ホテルのバーでも、ウイスキーの水割りには注意してミネラルウオーターを使うが、ウッカリ入れてもらった氷が実は水道水で作られており、これが原因で下痢をすると言ったこともあり、なかなか油断はできない。

 

しかし、私が長く暮らしていたインド南部のケララ州は、アジア大陸から三角形に南に突き出したインド亜大陸の南端(北緯8度位)近くにあり、西側は海に面している。

海岸沿いにはバックウオーターと呼ばれる入海が長く続き、高い椰子の木が育った、如何にも南国的で平和な地域である。 海と山が接近し、山には緑が多く、川は急傾斜で流れている。 比較的日本と似た地形の地域が多く、山の景色は日本とよく似ていて、松の木や桜の木もある。

 

ここの水を日本に持ち帰って検査してもらったところ、軟水で水質的には日本の水に近く飲用に適するとのことであった。 私達コーチンに暮らしていた日本人も少し慣れると、水道水を生で飲んでいた

インド国内でも他の州からコーチンに来た日本人が、私達が水道水をそのまま飲んでいるのを見てとても驚いていた。これは地形によって水は変わると言う一例である。

それでも水道の蛇口から水草が出てくると言ったようなことは時々あった。これはホテルの屋上にある貯水タンクに水草が発生し、それが水道に紛れこんでくるのである。

 

衛生的には問題がある。 ある時、造船所の建設技師が自分の出身地のボートレースに私達を招待してくれたことがあった。私達の宿舎のホテルから車で2時間程走って彼の自宅へ行った。 広い敷地に建つ立派な自宅には既に沢山の料理が準備されていた。 早速、料理や飲み物、多数の食器類、と共に手や食器を洗う水を入れたバケツなどを、日除け屋根の付いた小型のボートに積み込んだ。 彼の自宅はバックウオーター(入海)に面しているので、庭先から直接ボートにのって入海に出られる。

 

ボートレースはこのバックウオーターで行われる。 水は海と河の水が入り混じった感じで、波も流れも殆んどなく、ボートレースには適している。 但し、水は濁っており泥水ではないが、底は全く見えない。 長崎で有名なペーロンと呼ばれるボートレースがある(兵庫県の相生市にも同様なレースがある)が、これとそっくりである。 船首と船尾が高くなった大型の木造船に、各集落を代表する若者達が夫々20人ほどづつ乗り込み、速さを競う。 各集落の応援団も賑やかで、水上のお祭りである。

 

やがて昼食の時間となり、持参した料理を食べることとなった。招待してくれたインド人技師が自身で小皿に各種料理を取り分けて、私達に手渡してくれる。 皆が何度かお替りして食べる。 味もそこそこに美味しい。 技師がお替りの度に小皿を取り替え、持ってきたバケツの水でさっと洗って出してくれる。 何度か洗っている内にバケツの水が汚れて来たようだ。

すると、技師殿はバケツの水を一旦ボートの外へ捨て、濁ったバックウオーターの水をさっとすくってボートに戻し、ゆうゆうとその水で私達の皿を洗い、次の料理を勧めてくれる。 まずいところを見てしまった。 勿論今更料理を断るわけにも行かない。 美味しく頂き、お茶も飲んで、ご馳走様となった。

 

この技師殿は地元出身であるが、国立大学を卒業したインド中央政府採用の国家公務員で、日本で言えば一流大企業の技術系課長クラスであり、エリートである。 これはインドの衛生感覚を知るほんの一例であるが、良し悪しは別にして、日本とは衛生感覚が全く違う。 それを神経質に気にする人はここでは生活できない。

 

それでも、インドで生活を始めて、最初の一ヶ月は毎週下痢をしていたのが、2ヶ月目になると、月に2,3度程度となり、3ヶ月を過ぎると月に1度程度になり、やがて殆んど下痢をしなくなった。 体が現地の水に馴染んできた(免疫ができた)と言える(この免疫は長く続くらしく、インドから帰国して数年後に再度インドへ行った時は、全く下痢をすることがなかった)。 それと共に、最初は感じていた現地の人達の体臭も感じなくなってくる。 数ヶ月も現地の人達と同じものを食べていると、自分自身が同じ体臭になるのか、臭覚が麻痺するのか、何れかではないかと思う。 人間の体の細胞は半年で総て入れ替わると言われているので、半年を過ぎると私の細胞も総てインド製に置き換わったことになるのかもしれない。 もっとも、体調が悪いときや体力の弱い人は肝炎にかかり易いから要注意である。

 

インドでの暮らし その9 に続く